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Jun 6, 2009
11:47pm
三題噺(パルコ、檸檬、象)bynatsume_yoh
- natsume_yoh: むかし、私と美奈が一緒にアパートに住んでいたころ、裏庭にはよく野良猫が遊びに来ていた。そこに住んでいる人たちはその猫に思い思いに名前をつけて餌を与えていた気がする。はな、ジジ、プルートと呼ばれていたのを見たことがあったはずだし、私たちはその猫を「パルコ」と呼んでいた。[三題噺] [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2043697742]
- natsume_yoh: 「パルコ」と名づけたのは美奈だった。私は「パルコってPARCOのこと」と尋ねると、美奈は頷いたはずだ。/「なんでパルコなの?」/「なんかおしゃれな感じでしょ?」とおどけながら美奈は答えた。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2043779181]
- natsume_yoh: たぶん、彼女は猫の名前を考えているとき、いちばんはじめに目のついたものを選んだだけで、何も考えていなかったのだと思う。だいたいにおいて彼女はいつもそうだったし、そういう彼女が私は好きだった。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2043809909]
- natsume_yoh: 「パルコ」と名づけられた猫の性別は雄だったはずだ。だけど、雄にしては雌のような名前で呼ばれるようなことが多かったような気がするし、当の本人は名前が雄っぽいことや、あるいは雌っぽいことを気にしていた様子はなく、いつも飄々とした風貌で庭先を歩き回っていた。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2043879264]
- natsume_yoh: 美奈はそのころカット描きのバイトをしていたのだけれど、そのころからパルコをモチーフにしたイラストを少しずつ描くようになった気がする。私が覚えているのは黒猫の下半身にピラニアのような魚がかみついているイラストだ。美奈がコタツでその絵を描いている姿をぼんやりと記憶している。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2043987299]
- natsume_yoh: 美奈はそうやって気に入ったものをよく描くことが多かった。私がフリーマーケットで見つけてきた豚の蚊取り線香に「カトリーヌ」という名前をつけ、二ヶ月ほどその絵ばっかりを描き続けていたこともあったし、どこから見つけてきたかわからない小人の置物に「コロボックル」と名づけ、よく描いていた。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2044095739]
- natsume_yoh: なかでも変だったのは美奈がれもんを一心不乱に描いたときだった。スーパーで買ってきたれもんをいくつも買ってきてはそれらを描き続ける。/「スーパーのれもんなんてどれも同じ形じゃないの?」と私は三個目のれもんを描いている美奈に尋ねたことがあるはずだ。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2044337075]
- natsume_yoh: 「微妙に違うよ、ここの曲線とかさ」と楽しそうに二つのれもんを並べながら美奈は私に話しかける。きっと、彼女には彼女の世界があって、それはふたつのれもんのほんのささいな曲線さえもすてきなものに見えてしまうのだろう。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2044445704]
- natsume_yoh: 部屋に増えすぎたれもんは私が料理したのだけれど、すぐにそれも飽きてしまい、それでも増え続けるれもんは果汁を絞ってびんにためた。ふだん、料理するのは私なのだけれど、果汁を絞るときだけは美奈がやった。美奈はいろんなおかずにれもんをかけてはその感想を私に話した。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2044687736]
- natsume_yoh: ある日を境に、美奈かられもんの匂いがしたはずだ。美奈は自分で香水を作ってみたのと言っていたと思う。そのころになると、美奈の描いたれもんの絵は百を越えていたと思う。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2044913529]
- natsume_yoh: ただのれもんばかりでなく、腐りはじめたれもんや、腐ったれもんの絵も何枚かあったはずだ。そのせいか、ほんの少しだけ腐敗臭がしたのを覚えている。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2044916365]
- natsume_yoh: ある冬の日、私たちは動物園へ出かけた。私が行きたいと言ったのだ。美奈は私に「どうして動物園なの? この時期じゃあ動物はほとんど動かないでしょ」と尋ねた。私は「冬の動物園に行ってみたいの」と答える。本当はほんの少しだけ美奈の真似をしたかっただけだったと思う。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2045235405]
- natsume_yoh: 最後に見たのは象だった気がする。私たちはあてもなくうろうろし続ける象をずっと眺めていたはずだ。動物園には独特の獣の匂いがただよっていたと思う。私はそれが嫌で、れもんの匂いがする美奈にくっついていた。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2045391921]
- natsume_yoh: 「むかしね」と美奈は私に話をしてくれた。「実家のある町に象がきたことがあって、それに乗ったことがあるの。象の飼育員さんが特別にひとり乗せてあげるって。五十人くらいの子どものなかで私が選ばれたんだけど」/「これくらい大きな象?」と私が訊くと、美奈は頷いた。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2045478581]
- natsume_yoh: 私は象の背中に乗る幼い美奈の姿を想像した。きっと、もの珍しそうにあたりを見わしているはずだ。私は美奈の左手をぎゅっと握った。美奈は驚いて私のほうを見たたけれど、すぐに握り返してくれたと思う。彼女の手は冷たく、私の手もまた冷たくなっていたはずだ。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2045535674]
- natsume_yoh: 私と美奈はこのまま仲良く学生が終わるまで一緒に暮らし続けるのだと思っていたけれど、人生というものはそううまくいかないもので、次の春になると私たちは別々に暮らすようになった。それまでの部屋は私が使い、美奈は美大に近いところで暮らしていて、いまではもうほとんど会うことはない。 [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2045580164]
- natsume_yoh: だけれども、私のなかでは美奈と一緒に暮らしていたときの記憶は、それからだいぶ経ったいまでもきらきらと輝きをはなっているし、きっと美奈のなかでもそうであればいいなあと私は思っている。(おわり) [http://twitter.com/natsume_yoh/status/2045619412]
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